「髪が短いんですけど、かんざしって使えますか?」

京都の土産物問屋で和雑貨のバイヤーをしていた8年間、店頭のスタッフからいちばん多く届いたお客さまの質問がこれでした。
ショートやボブの方が、かんざしの棚の前で手に取っては戻していく。
そんな場面を何度も見てきました。

はじめまして、桐谷しおりです。
いまは着付け講師をしながら、かんざしや帯留めなど和小物のコラムを書いています。

先に答えを書いておきます。
ショートヘアでも、かんざしは使えます。
ただ、髪の長さによって「髪をまとめる道具」として使えるのか、「飾りとして挿す」使い方になるのかが分かれます。
そこを知らずに選ぶと、買ったのに挿せない、挿したのにすぐ落ちる、ということになりがちです。

この記事では、髪の長さ別に合うかんざしのタイプと、短い髪でも落ちにくくする挿し方をまとめました。
浴衣や成人式、卒業式の袴に合わせたい方にも役立つ内容にしています。

かんざしはもともと結い上げた髪に挿すものだった

短い髪だと使いにくい理由は、かんざしの成り立ちを知るとよく分かります。

東京都産業労働局の江戸つまみ簪の解説ページには、「簪」は「髪刺し」に由来するともいわれ、古くは細い棒を髪に挿して魔を払うと考えられていた、と書かれています。
文化庁の文化遺産オンラインで公開されている国立劇場所蔵の平打簪の解説では、簪は笄(こうがい)から分かれて生まれ、二本足の簪は享保(江戸時代中期)以降に現れたとされています。

江戸時代の女性の髪型といえば日本髪です。
京都国立博物館の所蔵品解説によると、日本髪は前髪、顔の両横にふくらませた鬢(びん)、後ろに束ねた髱(たぼ)で構成されていて、簪は前髪の脇に挿すのが一般的でした。
長い髪をしっかり結い上げ、その土台に挿す。
かんざしは、もともとそういう道具だったわけです。

いまのかんざしは、その前提が少し変わってきました。
専門店の通販サイトを見ると、昔ながらの一本軸や二本軸に加えて、コーム型、クリップ型、ヘアピン型まで「かんざし」として並んでいます。
短い髪の方が選べる形は、思っているより多いです。

髪の長さで「まとめる」と「飾る」が分かれる

かんざしの使い方は、大きく2つあります。

  • 髪をくるくる巻いて、かんざし1本でまとめ髪をつくる
  • まとめた髪やピンで留めた部分に、飾りとして挿す

ロングヘアの方はどちらもできます。
ショートやボブの方は、基本的に後者から考えると選びやすくなります。

一本軸でまとめられる長さの目安

かんざし専門店「かんざし屋wargo」の公式サイトにあるかんざしの使い方・挿し方の解説では、まとめられる長さの目安をかなり具体的に書いています。

  • 坊主や刈り上げほど短くなければ、かんざしでまとめられる
  • ハーフアップなら、耳上の髪をすくってねじったときに、根元から指2本分の間を空けられる長さ
  • 全部まとめるなら、肩くらいの長さ、または小さいゴムで結ってねじり、指2本分空けられる長さ

「指2本分」という基準は、売り場でお客さまに説明するときにもとても便利でした。
髪をねじって、根元と毛先のあいだに指が2本入るかどうか。
鏡の前ですぐ試せます。

一方で、着物情報サイト「きもの時間」の記事では、顎から肩くらいのボブやショートは全体をまとめるのは難しい、としています。
まとめ髪ができるかどうかは、髪の量や硬さ、ねじり方の慣れでも変わります。
「肩につく長さなら全体をまとめられる可能性がある、ボブ以下ならハーフアップや飾り使いが中心」くらいに考えておくと、期待外れになりにくいです。

ショート・ボブは「飾る」から始める

成人式の写真で知られるスタジオアリスの振袖とショートヘアの記事では、かんざしはまとめ髪向きで、ショートやボブにはやや不向きと書かれています。
サラサラの髪だとずれ落ちやすい、という指摘です。
同じ記事では、ヘアクリップやコーム、Uピンのほうが短い髪でも留まりやすいとしています。

この見方は、私の経験とも重なります。
ショートの方が一本軸のかんざしを「そのまま」挿そうとすると、まず落ちます。
でも、ピンやゴムで小さな土台をつくってから挿せば、話は変わります。

かんざし屋wargoのFAQでも、髪が短い方はヘアピンなどで小さなお団子をつくれば、そこに挿して飾れると案内しています。
Uピンタイプのものは、ヘアピンで留めて使ってもよいそうです。

髪の長さ別に合うかんざしのタイプ

ここまでの話を、髪の長さごとに整理します。

髪の長さかんざしでできること選びやすいタイプ
ベリーショート・ショート耳上や耳後ろに飾るヘアピン型、Uピン型、クリップ型、小ぶりなかんざし
ボブハーフアップや小さなお団子に挿す短めの一本軸、ヘアピン型、クリップ型
肩につく長さ〜ミディアムハーフアップ、低めのまとめ髪一本軸、二連のかんざし、コーム型
セミロング・ロング1本でまとめ髪をつくる標準〜長めの一本軸、二本軸

ベリーショート・ショート

この長さは、まとめ髪をつくるのではなく、アクセサリーとして飾る使い方が中心です。
ヘアピン型やUピン型、毛束を挟むクリップ型が扱いやすいです。

かんざし屋wargoの卒業袴向けのコラムでは、ショート・ボブの方には、耳の上あたりに小ぶりな飾りを2〜3個並べる付け方を紹介しています。
無理にまとめず、ヘアピン感覚で挿す考え方です。
大きな飾りを1つ付けるより、小さいものを並べたほうが短い髪には軽やかに収まります。

耳の上は、スタジオアリスの記事でもショートやボブの「王道」の位置とされています。
迷ったら、まず耳の上から試してみてください。

ボブ

ボブは、いちばん選び方の幅が広い長さです。
耳上の髪だけを取ってハーフアップにすれば、一本軸のかんざしも使えます。

かんざし屋wargoの解説ページでは、ショートヘアの方には短め(12cm)のかんざしをすすめています。
軸が長いと、短い髪の束から先端が大きくはみ出してしまうからです。
ボブの方も、最初の1本は12cm前後の短めの軸を選ぶと失敗しにくいと思います。

髪をまとめる自信がない方は、くるりんぱでできた隙間に挿す方法がおすすめです。
これも同じ解説ページで紹介されている付け方で、結び目がしっかりしているぶん安定します。

手順は次の通りです。

  • 耳上の髪を左右から取り、後ろで小さいゴムで結ぶ
  • 結び目の上の髪を指で割って隙間をつくり、毛先を上から通して裏返す
  • ゴムを少し締め直し、できた隙間にかんざしを斜めに挿す

ボブの長さでも、この方法なら毛先が足りなくなることはほとんどありません。
ゴムが見えるのが気になる方は、髪色に近い色のゴムを選んでください。

肩につく長さ〜ミディアム

ここまで伸びると、一本軸でのまとめ髪に挑戦できます。
とはいえ、いきなり髪全体を1本でまとめるより、ハーフアップから始めたほうが慣れやすいです。

二本軸のかんざしを使う場合は注意が必要です。
かんざし屋wargoの解説によると、二本軸はお団子をつくってから挿すもので、挿したあとに向きを直せません。
一発で決める必要があるので、慣れないうちは向きを調整できる一本軸のほうが気楽です。

揺れる飾りを楽しみたい方は、二連のかんざしをハーフアップの結び目に合わせるのも素敵です。
同じ卒業袴向けのコラムでも、ミディアム・セミロングの方の付け方として紹介されていました。

短い髪でも落ちにくくする挿し方のコツ

短い髪でかんざしを使うときの悩みは、ほぼ「落ちる」「ずれる」に集約されます。
売り場で質問を受けたときに伝えていたことと、今回調べ直して確認できた方法をまとめます。

  • 黒のアメピン2本をクロスさせて挿し、そこを土台にしてかんざしを付ける
  • くるりんぱや小さなお団子をつくり、その結び目や隙間に挿す
  • 編み込みや三つ編みを少しつくり、その編み目に挿す
  • ワックスで毛束に少し束感を出してから挿す
  • 髪の量が多い方は、金属軸より滑りにくい木軸を選ぶ

アメピンをクロスさせる方法は、スタジオアリスの記事でも、かんざしやヘアクリップのずれ防止として紹介されています。
私も着付けのときによく使う方法です。

ワックスで束感を出すコツは、先ほどのかんざし屋wargoの卒業袴向けのコラムにありました。
髪がサラサラすぎると滑ってしまうので、少しだけ手ざわりを残すイメージです。

木軸と金属軸の違いは、かんざし屋wargoの挿し方の解説ページでQ&Aとして触れられています。
髪の量が多い方の場合は、真鍮などの金属軸よりも木軸のほうが滑らず、しっかりまとまるそうです。

挿す前に、鏡の前で一度頭を軽く振ってみてください。
その場で落ちるようなら、当日はまず持ちません。
土台のピンを1本増やすだけで、ぐっと安定します。

場面ごとの合わせ方

同じショートヘアでも、着ていく場面によって向くかんざしは少し変わります。
着付けの相談でよく聞かれる3つの場面について、私なりの考え方をまとめました。

浴衣で夏祭りや花火大会へ

浴衣は、かんざしをいちばん気軽に楽しめる場面です。
かんざし屋wargoの浴衣向けのコラムでも、ショート・ボブの方にはクリップタイプやUピンタイプのミニかんざしをすすめています。

人混みを歩く日なので、大きな飾りより小ぶりなものが安心です。
浴衣の柄から1色拾って、飾りの色を合わせるとまとまりが出ます。

成人式や卒業式の袴

成人式や卒業式は、着ている時間が長く、移動も多い1日です。
スタジオアリスの記事でも、ショートヘアの場合は髪飾りを直接付けるだけでは不安が残るとして、ピンでしっかり固定することをすすめています。

この日は、美容院でヘアセットをお願いする方が多いと思います。
持ち込みたいかんざしがあるなら、予約の段階で伝えておくと、土台のつくり方まで考えてもらえます。

かんざしにこだわらず、カチューシャ型の髪飾りを選ぶのもひとつの方法です。
同じ記事では、取れたり落ちたりする心配が少なく、動きの多い式典の日に向くと紹介されています。

普段の洋服に合わせる

小ぶりなヘアピン型やクリップ型は、着物の日に限らず、普段の洋服にもなじみます。
ショートの方なら、耳上に1本挿すだけで十分です。
最初はシンプルな色や形を選ぶと、合わせる服を選びません。

買う前に見ておきたいところ

最後に、短い髪の方がかんざしを選ぶときに、私がいつも見るところを3つ挙げます。

1つ目は、軸の長さです。
先ほどの通り、ショートやボブなら12cm前後の短めの軸から選ぶと扱いやすいです。
商品ページに軸の長さが書かれているかどうかは、必ず確認してください。

2つ目は、留め具の形です。
同じ「かんざし」でも、一本軸、二本軸、コーム型、クリップ型、ヘアピン型では使い方がまったく違います。
自分の髪の長さで使える形かどうかを、表と照らし合わせてみてください。

3つ目は、飾りの大きさと重さです。
バイヤー時代、短い髪のお客さまから「落ちた」という声が上がるのは、たいてい飾りが大ぶりで重いものでした。
短い髪には、小ぶりで軽い飾りのほうが相性がいいです。

選ぶ場所としては、髪の長さ別の使い方まで案内している専門店が安心です。
この記事で何度も参照したかんざし屋wargoは、株式会社和心が2005年に下北沢で始めたかんざし専門店です。
公式サイトでは、ショート、セミロング・ロング、スーパーロングと、髪の長さ別に挿し方の動画も公開しています。

かんざし文化を現代に合わせて届けてきたブランドの背景は、和心の代表・森智宏氏の人物像や歩みをまとめた記事が読みやすいです。
売り場の考え方を知ると、棚の見え方も少し変わってきます。

まとめ

ショートヘアでも、かんざしは使えます。
ポイントは、髪の長さによって「まとめる」のか「飾る」のかを先に決めることです。

  • ベリーショート・ショートは、ヘアピン型やクリップ型を耳上に飾る
  • ボブは、12cm前後の短めの一本軸をハーフアップやくるりんぱに挿す
  • 肩につく長さからは、一本軸のまとめ髪にも挑戦できる
  • 落ちやすいときは、アメピン2本をクロスさせた土台をつくる

かんざしは長い髪の人だけのもの、と思われがちです。
でも、短い髪に小さなかんざしがひとつ入ると、浴衣や袴の印象はずいぶん変わります。

棚の前で手に取って戻していた方が、今度は1本選んでみようと思ってもらえたらうれしいです。