ポンプからいつもと違う音がする…。
なんだか最近、流量が安定しない…。
そんな風に、現場のスクリューポンプの“ちょっとした変化”に頭を悩ませていませんか?
その気持ち、痛いほどよく分かります。
ポンプは工場の心臓部。
その鼓動が乱れれば、生産ライン全体に影響が及んでしまいますからね。
はじめまして、桜井蓮と申します。
かつて大手ポンプメーカーで、長年スクリューポンプの技術開発に携わってきました。
高粘度のクリームから、繊細な薬液まで、様々な流体と向き合う中で、数えきれないほどのトラブルと、その解決の瞬間に立ち会ってきました。
この記事では、そんな私の経験のすべてを注ぎ込み、あなたが現場で直面しているスクリューポンプのトラブルを解決するための具体的なヒントをお伝えします。
この記事を読み終える頃には、不調の原因を見抜く「思考のフレームワーク」が身につき、自信を持って対処できるようになっているはずです。
さあ、一緒にあなたの現場の“相棒”の声に耳を傾けていきましょう。
目次
まずは落ち着いて!スクリューポンプが出す「3つのSOSサイン」
ポンプの不調は、突然やってくるように見えて、実はその前に必ず何らかのサインを出しています。
それは、言葉を話せない機械が私たちに送る、必死のSOSサインなのです。
まずは、あなたのポンプがどのサインを出しているか、冷静に確認してみましょう。
- サイン1:異音・振動
「ゴロゴロ」「ガリガリ」といった異音や、これまでになかった振動はありませんか?
これは、ポンプ内部で何らかの異常が起きている最も分かりやすいサインです。 - サイン2:流量・圧力の低下
いつもと同じ設定で運転しているのに、送られてくる液体の量が減ったり、圧力が上がらなくなったりしていませんか?
これは、ポンプの能力が低下している証拠です。
まるで人間でいう“血流”が悪くなっているような状態ですね。 - サイン3:突然の停止・起動不良
運転中に突然ポンプが停止したり、ブレーカーが落ちたりする。
あるいは、そもそも起動スイッチを入れても動かない。
これは、何かが物理的に動作を妨げているか、電気系統に問題がある可能性を示す、緊急性の高いサインです。
あなたのポンプは、どのサインに当てはまりましたか?
原因の見当をつけるだけでも、対処への第一歩になります。
なぜ?トラブルの裏に隠された「本当の原因」を探る
SOSサインをキャッチしたら、次はその原因を探る番です。
ここでは、先ほどの3つのサイン別に、考えられる主な原因を私の経験談も交えながら解説していきます。
原因1:異音・振動はポンプの悲鳴
異音や振動は、ポンプが「痛いよ!」と上げている悲鳴です。
主な原因としては、キャビテーション(液体が沸騰して泡が発生する現象)やエア噛み(空気を吸い込んでしまうこと)が挙げられます。
キャビテーションは、ポンプの吸込側で圧力が下がりすぎ、液体が沸騰してしまう現象です。
身近な例で言うなら、鍋を空焚きしているような状態を想像してみてください。
発生した泡がポンプ内部で潰れる時の衝撃が、部品を叩き、あの「ゴロゴロ」という異音や振動を引き起こすのです。
また、配管の接続部などから空気を吸い込んでしまう「エア噛み」も厄介です。
ストローでジュースを飲んでいる時に、一緒に空気を吸い込んで「ズズズッ」と音がするのと似ていますね。
液体と空気が混ざることで、正常な流れが阻害され、異音や振動の原因となります。
原因2:流量・圧力の低下は“血流”の悪化
流量や圧力が落ちるのは、ポンプの心臓部であるローター(回転するネジ状の部品)とステーター(ローターを収める固定部品)の間に、隙間ができてしまっているケースがほとんどです。
長年の使用による摩耗で、部品同士の密閉性が失われ、液体がポンプ内部で逆流してしまうのです。
これを私は「ポンプ内の“血液”が漏れている状態」と呼んでいます。
実は、私にも苦い失敗談があります。
若手時代、コストを優先して海外製の安価なポンプを化学プラントに導入したことがありました。
しかし、その薬液の特殊な性質を見抜けず、ステーターのゴムが想定より遥かに早く摩耗してしまったのです。
結果、ラインを3日間も止める大事故に…。
この経験から、ポンプ選びは、移送する液体との“相性”が何よりも重要なのだと骨身に染みて学びました。
机上の計算だけでは、決して分からないことがあるのです。
原因3. 突然の停止は緊急事態
ポンプが突然止まる場合、最も多いのは異物の噛み込みです。
流体の中に紛れ込んだ固形物が、ローターとステーターの間に挟まり、回転を物理的にロックしてしまうのです。
私もかつて、食品工場のラインで、クリーム原料を移送するポンプが頻繁に停止するという問題に直面しました。
原因を調べてみると、原料に混入したナッツの小さな破片が、ポンプを止めていたことが分かりました。
現場の方々と協力し、ポンプ手前に適切なメッシュのストレーナー(濾し器)を設置することで、ようやく安定稼働を実現できたのです。
その他、モーターの焼き付きや電気系統のトラブルも考えられます。
いずれにせよ、緊急停止は重大な故障に繋がる危険なサインですから、すぐに専門家に相談することをお勧めします。
今日からできる!トラブルを防ぐための「3つの習慣」
トラブルが起きてから対処するのも大切ですが、もっと重要なのは、トラブルを未然に防ぐことです。
ここでは、私が現場で必ず実践してきた、ポンプを長持ちさせるための「3’つの習慣」をご紹介します。
習慣1:五感でチェックする「日常点検」
毎日、ポンプの様子を五感で感じてみてください。
「機械の声を聞く」というのは、なにも特別な能力ではありません。
- 目で見る:ポンプ周りに液漏れはないか?圧力計の針はいつもと同じ位置か?
- 耳で聞く:いつもと違う音はしないか?
- 手で触る:モーターや軸受が異常に熱くなっていないか?(火傷には十分注意してください)
- 鼻で嗅ぐ:焦げ臭い匂いはしないか?
この小さな変化に気づくことが、大きなトラブルを防ぐ第一歩になります。
習慣2:データを味方につける「運転記録」
圧力、流量、モーターの電流値といった運転データを、毎日記録することをお勧めします。
手書きのノートでも構いません。
データを記録し続けると、「なんだか最近、同じ流量を出すのに電流値が上がってきたな…」といった、五感だけでは気づきにくいポンプの微細な変化が見えてきます。
これは、ポンプ内部の摩耗が進んでいるサインかもしれません。
データは、あなたの現場のポンプにとって、最高のカルテになるのです。
習慣3:最適な“相棒”を選ぶ「ポンプ選定」
そもそも、今起きているトラブルは、ポンプの選定ミスが原因かもしれません。
流体の粘度や性質、運転時間、周囲の環境。
これらの条件に合っていないポンプを選んでしまうと、どんなに丁寧にメンテナンスをしても、いずれ限界が来てしまいます。
結局のところ、ポンプ選びは“相性”なんです。
もしトラブルが頻発するようなら、一度立ち止まって、そのポンプが本当にあなたの現場の“相棒”としてふさわしいのか、見直してみる勇気も必要です。
まとめ:流れを制する者は、プロセスを制する
今回は、スクリューポンプのトラブル解決をテーマに、その原因と対策についてお話ししてきました。
- まずはポンプが出す「異音」「流量低下」「突然の停止」という3つのSOSサインに気づくこと。
- その裏にある「キャビテーション」「部品の摩耗」「異物混入」といった本当の原因を探ること。
- そして「日常点検」「運転記録」「適切なポンプ選定」という3つの習慣で、トラブルを未然に防ぐこと。
ポンプは単なる機械ではありません。
あなたの現場の生産性を支え、品質を守る、かけがえのないパートナーです。
その声に耳を傾け、正しくメンテナンスをしてあげれば、きっとあなたの期待に応え続けてくれるはずです。
流れを制する者は、プロセスを制する。
さあ、あなたの現場の“相棒”の顔を見に行きましょう。
きっと、いつもと違った表情に見えてくるはずですよ。